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2005.06.13

開発的な仕事で確実なのは、試行錯誤だけである。

ジェーン・ジェイコブスの著書、1969年「都市の原理」(鹿島研究所出版会)より。

 ジェイコブスはその著書の「都市の非効率と非実用性」の中で、発展する都市は長い目で見たら実に非効率で非実用性に見舞われていると述べている。
 著者は、産業革命時の対照的なマンチェスターとバーミンガムを例にとって説明する。
 前者は繊維工場が圧倒的な効率で運営されており、後者は時代遅れで、小規模な家内産業が大半を占めており、はっきりした特産の品を持たなかった。

 ところが、効率的だったはずのマンチェスターは斜陽化し、バーミンガムは古い仕事に新しい仕事をドンドン付け加えて、20世紀にはロンドンにイングランドに続いて第2の都市になったと述べている。
 断りをいれるがあくまでも1960年頃の話だ。いまはマンチェスターは学園都市であり、IT関連産業やエンジニアリング産業を基盤に発展しているらしい。

この地域の主要産業は、エレクトロニクス、エンジニアリング、化学薬品、自動車、保健医療、原子力エネルギー、情報工学、食品加工、繊維などです。また、観光も重要な産業として成長しています。
北西部のサービス産業には、科学的および専門的な知識を要する業種と、輸送ならびに流通関連の会社も含まれています。マンチェスターは専門職とメディアサービスの中心地です。30の外国銀行と多数の投資機関やベンチャーキャピタル会社のある北西部は、有力な金融センターでもあります。

英国大使館投資部「地域別ガイド:北西イングランド」より

 一方のバーミンガムはというと...。

この地域の伝統産業は金属、自動車、エンジニアリング、工作機械、電機、陶磁器、機械部品などです。さらに、航空宇宙、産業ロボット、一般消費者用エレクトロニクス製品、遠隔通信、情報通信、ソフトウェア産業、プラスチック加工産業などの新技術によってこの地域の産業は強化されています。ウェスト・ミッドランズは、英国全土やヨーロッパ市場へ機械部品を供給するという重要な役割を果たしています。
英国大使館投資部「地域別ガイド:ウェスト・ミッドランズ」より

 話を戻すが、バーミンガムの説明で、「開発的な仕事で確実なのは、試行錯誤だけである。」との明言の意味するところは、要するに都市経済を長期的にとらえるならば、現在の経済指標だけではダメで、古い仕事に新しい仕事(産業)がどれだけ加わったかを調べなきゃ本当のところは分からないといっているんだ。あくまで、開発的な仕事が都市の発展を決めるのであると。

 だから、開発的な仕事は試行錯誤だらけで失敗の確率が高いから、非効率・非実用的になるというわけだ。

 ところが、いまだもって新しい仕事の増加分を図る経済指標なんてないから、勢い定性的な、しかし鋭い視点でジェイコブスは都市を評価している。当時の東京は高い開発率だったし、逆にデトロイトは自動車産業に安住して新しい仕事を開発してこなかったため衰退していると、断じている。

 ま、北九州市や室蘭市が重厚長大産業に特化していたから時代がかわって衰退したというのは中学生でも知っていることだけど、新しい仕事を開発してこなかった、あるいは試行錯誤してこなかったという視点・ものの見方を習ったことはない。

 余談だけど、産業革命頃のマンチェスターはマルクス・エンゲルスがものすごく注目してたらしい。マンチェスターの工場資本家と非道い扱いを受けた労働者を観察して「資本論」がうまれたのね。その後のマルクス経済の凋落ぶりを考えると意味深だね。

 僕が何でジェイコブスの言葉を「今日の一言」に挙げたか、というと今までの話は実は全然関係ない。橋本治が同じようなことを『「わからない」という方法』のなかで強調していたからだ。

おっとここで「高田エージ」のライブを見る時間が迫ってきているので、続きは後日ということで。
追記:
『「わからない」という方法』の一節を引用する。


意外性というものは、大きければ大きいほど、その達成するところも大きい。と同時に、これが大きければ大きいほど、失敗の率も高い。その反対に、その確実性というものは、失敗の度合いを低くするものだから、意外性の大きさは確実性を小さくし、確実性の大きさは意外性を小さくする。これは常識なのだが、しかし上司というものは、常識を逸脱したピラミッドの住人だから、「意外性も高く確実性も大きい」という矛盾したものを求める。』

橋本治がここで問題にしている「企画書」なら、これはこれでいい。「企画書」は最初ボツになるためにあるようなものだから。そう「企画書」づくりは効率的なものとはほど遠い。
ところが「企画書」を持ち出して「企画書社会」論になっているところが橋本治のすごいところ。

『だから企画書は、ものわかりの悪い上司にも分かるように書かれなければならない。「明快なる方向性を持つ」とは、このことである。』
『企画書というものは、「現場の発想を生かすもの」ではなく、「上司の理解力に届くもの」である。それが現状である。だから、企画書に書かれるべきことは「世間知らずの上役でもわかりそうなウソ」だけになる。「適当なウソを書いておいて上のOKだけを取っておき、その後でやるべきことをやる」というのが、「根回し」とも呼ばれる日本的な行動様式である。』

これが、実は何を言ってるかというと、文脈を良く読むと、官僚主義のことである。
当然、上役とは日本国民である。

橋本治は冒頭でこうも言う。
『よく考えてみればわかることだか、「何でもかんでも一挙に解決してくれる便利な“正解”」などというものは、そもそも幻想の中にしか存在しないものである。「二十世紀が終わると同時に、幻滅もやってきた』と思う人は多いが、これもまた二十世紀病の一種である。二十世紀が終わると同時にやって来たのは、「幻滅」でなく、ただの「現実」なのだ。
<中略>
であればこそ、二十一世紀は、人類の前に再び訪れた、「わからない」をスタート地点とする、意図も当たり前の時代なのである。」

 こうしてみると2001年に書かれた『「わからない」という方法』と1969年に書かれた『都市の原理』の一節は実は同じことを言っているのである。
 なぜなら、前者の『何でもかんでも一挙に解決してくれる「正解」があると思うなんて「幻想」だ。』というのは、官僚社会主義の誤謬について、述べたのであって、『開発的な仕事で確実なのは試行錯誤である。』ってことは、その官僚社会主義と相容れないからである。

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コメント

様々な観点と、様々な関係と、様々な角度から述べられているわけですが、
これは、何も真面目な社会的関係性だけにあてはまるわけではなくて、
「恋」に置き換えれば、あっそうかとなる気がします。

一概には言えないけど、手に入れるまでが
面白いのであって、
予定調和な恋なんて・・と思ってしまったりしますが、
往々にして、妄想世界では、その予定調和な恋を理想と捉え、追いかけ回したりしちゃうものですね・・・。

仕事で企画書をたくさんつくる仕事をしていると、往々にして、上記に書かれているような「説得書」をつくってしまいがちですけど、
一見そういう風にみせかけておきながら、実は相手をおりこうさんへと導き、説得していくことも、不断の努力としては、大切なことであると思います。その方が、結局楽だし・・・。(笑)

今日、電話で建築の専門家と色々話したのですが、最後はそういう話にいきついてしまいました。(笑)

投稿: けんたろ~ | 2005.06.14 01:02

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